本記事は、「衛生的なサイレージ」に関する3連続記事の1回目になります。次回以降は、サイレージ調製中の管理戦略と動物の健康についてご紹介する予定です。
全てのサイレージ貯蔵施設の内部では、「好ましい微生物」と「好ましくない微生物」との目に見えない戦いが行われています。もし好ましい微生物が勝てば、栄養価の高いサイレージが豊富に手に入ります。一方で好ましくない微生物が勝った場合は、サイレージの乾物量と栄養素の有意な減少やカビの発生が起こる可能性があります。これは結果として、動物の食べ残しや、生産成績、健康状態や繁殖成績の悪化につながります。 私たちは、好ましい微生物が勝てるようにサポートする必要があります!
私たちは適切な管理をすることによって、栄養価の高いサイレージをより多く作ることが出来ます。これは結果として、経営全体の収益性に大きな違いにつながります。しかもおすすめの管理手法は、特にお金も時間も掛からないため、確実に元を取ることが出来ます。
あなたの課題はどこにある?
まず始めに、あなたが直面している課題について理解することが大切です。圃場で育てている作物には、自然に幅広い種類の微生物が付着しています (図 1)。様々な分類 (細菌、酵母、カビ)、科 (ラクトバチルス科の乳酸菌)、種 (レンチラクトバチルス ブーケンライ)、株 (レントラクトバチルス ブーケンライ NCIMB 40788) の菌が、豊富に存在していることが分かります。付着している微生物は、次のような要因に影響を受けます。:
- 施肥と作付け方法
- 天候
- 作物の成熟度
- 収穫方法
- 予乾時間
さらに微生物は、サイロ構造や使用する調製材、サイロへの詰込み速度、カバー掛けと密閉などのサイレージ調製方法によっても影響を受けます。
微生物の名称 | 原料作物1gあたりの生菌数(CFU/g |
---|---|
好気性細菌 | > 10,000 |
乳酸菌 | 10 ~ 1,000,000 |
腸内細菌科菌群 | 1,000 ~ 1,000,000 |
酵母 | 1,000 ~ 100,000 |
カビ | 1,000 ~ 10,000 |
芽胞を作るクロストリジウム属細菌 | 100 ~ 1,000 |
芽胞を作るバチルス属細菌 | 100 ~ 1,000 |
酢酸産生細菌 | 100 ~ 1,000 |
プロピオン酸産生細菌 | 10 to 100 |
また、サイロ内に酸素が残存している間の植物の呼吸や 好気性細菌の増殖や活性は、栄養素の損失を引き起こすとともに、急速なpH低下を妨げ、さらに熱を発生させます。これらの活動を抑えるには、素早く、十分な踏圧密度で、確実に密閉することが大切です。
サイロ内には、好ましくない嫌気性微生物が存在している可能性もあります。それらは、サイレージ発酵の主役を担う好ましい微生物である野生の乳酸菌(LAB)と競合し、大きな問題を引き起こすことがあります。この問題は、特に外気に曝される時間が長く、乳酸発酵を促進するための糖が不足している場合に見られます。
通常好ましくない微生物には、腸内細菌科菌群(大腸菌群を含む)、クロストリジウム属細菌、酵母、カビが挙げられます。
LABは、優れたサイレージ発酵を促すために重要な微生物です。 中でも重要なのは、ホモ乳酸発酵を行う乳酸菌です。これは、原料作物中の主要な糖分から乳酸のみを、急速に産生します。乳酸は、発酵によって産生される酸の中で最もpHを下げる力が強い物質です。そのため、乳酸によってpHを素早く低下させ、カビや酵母の増殖を防ぐ安定した低pH環境を作ることが大切です。
残念なことに、収穫前の作物に付着しているLABはわずかです。それゆえに、確かな乳酸菌配合のサイレージ調製材製品を添加することがお勧めです。しかしサイレージ調製材は、サイレージ発酵中の微生物戦争を好転させる魔法の粉ではありません。適切なサイレージ調製管理を実践してこそ、サイレージ調製材を使って作物中の微生物の戦争を治めることが出来ます。
施肥を管理する
堆肥は、糞から土へと栄養素を循環させるため、持続可能性の観点からみて優れた資源です。しかし当然のことながら堆肥には、大腸菌やクロストリジウム属細菌などが生息している可能性があります。 これらの微生物は、サイレージ発酵と給与された動物の生産成績に悪影響を与える病原菌です。理想的には、施肥後から作物の収穫までには、28~32日の間隔を空ける必要があります。この普遍的な管理を実践することによって、サイレージに腸内細菌科菌群が混入するリスクを減らすことが出来ます。
最後の施肥から刈り取りまでの期間が短すぎた場合、サイレージ発酵中にLABと競合する腸内細菌科菌群やクロストリジウム属細菌が混入する可能性があります。 クロストリジウム属細菌は、土壌中にも自然に生息しています。そのためたとえ施肥のタイミングが順調であったとしても、 土と共にクロストリジウム属細菌が混入する可能性もあります。このような理由から、サイレージ分析で灰分を測定し、土の混入を把握することが大切です。天候が味方をしてくれないこともしばしばあります。施肥直後に乾期になると、作物に付着している腸内細菌科菌群が収穫まで残りやすくなります。
圃場作物のダメージを避ける
干ばつや洪水、病原菌によるダメージは、全て圃場作物にとってのストレスです。しかし残念ながら、自然界の脅威を防ぐ手立てはありません。 私たちに出来る最善のことは、起こりうる影響を理解し、可能な限り病虫害を緩和することです。
洪水、雹、干ばつなどの気象によって作物がダメージを受けると、カビが発生しやすくなり、それに伴ってカビ毒も 産生されます。もしサイレージに目に見えるカビが生えていた場合、 カビの増殖と熱の産生によって、作物中の多くの可消化栄養素がすでに失われてしまっている可能性があります。いくつかのカビはカビ毒を産生し、動物の生産成績を減少させたり、健康や繁殖性に悪影響を与えるだけでなく、畜産製品の食の安全のリスクを高めます。
サイレージの不良発酵を最小限に抑えるには、好ましくない微生物を抑える働きが証明されているサイレージ調製材を用いたり、優れた管理に注力することが有効です。酸素への暴露と雨風の影響を抑えるために、サイロへの詰込みを素早く行い、効果的に踏圧を行い、 カバーと密閉を確実に行います。こうすることで、不良発酵のリスクを低減することが出来ます。
優れた収穫を実践する
限られた圃場から最大の収量を得ようとした場合、消化率が低かったり、サイレージ発酵が上手くいかずに腐敗や廃棄が増えたりと、品質とのトレードオフに終わることが良くあります。作物の刈り取りの高さを低く設定しすぎると、圃場が削られ、土壌や作物片の混入汚染が起こる可能性があります。 また刈り取り高が適切であっても、ハーベスターの設定によっては、真空効果によって収穫作物に土が吸い込まれてしまうことがあります。複数のウィンドローをまとめる際にも、土の混入リスクがあります。 収穫する作物に適した機器の設定については、製造メーカーに問い合わせると良いでしょう。
土壌中には様々な好ましくない微生物、特にクロストリジウム属細菌の芽胞が含まれています。もし収穫した原料作物に、多量の土が含まれていた場合、そのような微生物の汚染リスクと、不良発酵が増える可能性があります。土の混入量は、サイレージ分析の灰分値から推定することが出来ます。参考値として、コーン、イネ科牧草、マメ科牧草の中に含まれる一般的な灰分量は、各々およそ乾物あたり 4%、7% 、10% です。土の混入が動物の生産性と健康に与える影響の詳細は、次回の記事でご紹介したいと思います。
積み込み場所を確認する
灰分の汚染は、サイロ積み込み時に起こることもあります。サイロの大きさを見誤ったときなどは、原料作物が地面に落ちてしまいます。このような時には、原料作物を回収するために地面に触れるため、土や好ましくない微生物が混入します。サイロ周辺、特に取り出し面の水はけが悪い場合、この問題の負の影響が大きくなります (写真1)。
飼料分析による灰分量の測定や、飼料摂取量、飼槽での飼料の好気的安定性の記録には、大きな費用は掛かりません。これらの値の測定は、サイロ面積や建設、シートに投資を行うかを決定するための判断材料になります。
写真 1: サイロ周辺の水はけが良くない実例
サイレージ調製材の利用
サイレージ発酵の初期段階において、pHを素早く低く安定させるだけで、 多くの問題を解決することが出来ます。好気的な微生物は増殖できなくなり、サイレージ中の動物のための貴重な栄養素を奪えなくなります。 さらにクロストリジウム属細菌や腸内細菌科菌群のような好ましくない 嫌気性微生物も、淘汰されます。高い酵素活性を持つサイレージ調製材を使用した場合には、LABが活発な発酵を行うのに必要な糖を取り出すことが出来ます。 このような酵素を含むサイレージ調製材は、繊維を分解し、動物の消化管内での繊維消化と飼料の利用性を向上させます。
サイロ開封後の二次発酵や腐敗による乾物ロス、収穫不備などの問題には、ヘテロ乳酸発酵を行う乳酸菌の添加がお勧めです。 1日1頭あたりの費用に換算して考えると、科学的なデータで効果が証明された製品を使用するのが良いでしょう。
小さな変化を積み重ねる
動物への給与飼料のうち、サイレージは重要な価値のある資産です。収量を増やすことや、サプリメント飼料を購入することは、必ずしもうまくいく戦略ではありません。ほんの少し乾物ロスを減らすだけでも、経営収支に大きな差が生まれます。