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稲ホールクロップサイレージ

稲ホールクロップサイレージは「稲WCS」や「稲発酵粗飼料」と呼ばれ、畜産農家の皆様に知られるようになってきました。飼料成分はイタリアンライグラスサイレージと比べて粗蛋白質はやや低いですが、繊維の消化性は良好でカリウム含量が低く、使い易い飼料と言えます。その特徴を理解して使用すれば、経済的な粗飼料の1つです。稲は温帯モンスーン地帯によく適合した作物で、これまで食用米の生産に使われてきました。しかしお米の消費量が減少するとともに、水田の活用機会が減少し続けています。国は稲作農家を守るために、飼料に仕向ける稲について生産費相当額を支援しているため、畜産農家は耕畜連携によって安価にサイレージを入手することができます。このページでは、サイレージ原料としての収量と品質を高めるための品種の選び方、肥培管理のポイント、収穫時期、サイレージ調製の留意点、飼料価値と給与の目安などを紹介します。

品種の選択

2つのタイプ

稲ホールクロップサイレージに仕向ける稲には食用米品種を使うこともできますが、多収を実現するためには専用品種を活用することが有利です。専用品種には特に2つの特徴があります。1つ目は上手に作れば乾物1.5トン/10aの収量が得られます。2つ目は食用米品種と違って多肥栽培しても倒れにくいことです。

また専用品種は大きく分けて2つの品種グループがあります。それは籾と茎葉の比率の違いによって、食用米品種に近い比率の「従来型」と地上部全重に対する籾比率が10%程度でしかも茎葉中にスクロース、フルクトース、グルコースといった単少糖類が乾物中に12〜14%程度、さらにデンプンを20%程度含む「極短穂高糖分型」の2グループです(写真1,図1)。サイレージ用に育成された「極短穂高糖分型」品種は世界的にもめずらしいもので、「つきすずか」、「つきことか」、「たちあやか」、「たちすずか」の4品種があります。最近の栽培動向は「従来型」から「極短穂高糖分型」に変更する事例が多くなってきました。専用品種の種子は(一社)日本草地畜産種子協会から17品種が販売されています。専用品種には栽培適地と利用目的がありますので、お近くの普及指導機関などに相談されると良いでしょう。

写真1 WCS用イネ品種の特徴

 

図1 WCS用イネ原料草の糖含量

 

 

 

栽培法

専用品種といっても栽培法は食用米と基本的に大きな違いはありませんが、飼料向けに利用するために施肥管理と農薬利用にポイントがあります。

専用品種の施肥管理は収量を高めるために多肥栽培します。堆肥を使った低コスト施肥の一例を紹介しますと、10a当たり基肥として牛ふん堆肥2 t、硫安・尿素など4〜8 kg、追肥として同じく4〜8 kgを施肥します。これは食用米栽培の倍量以上になり、初めて栽培される稲作農家にとって驚くような施肥量なのですが、高い耐倒伏性を持つ品種だからこそ可能です。

稲ホールクロップサイレージ向けに栽培するイネの農薬使用には、畜産物の安全性確保と食用米生産への配慮から制限があります。茎葉と籾を合わせて家畜飼料するため、農薬残留に注意しなければなりません。 このため、使用は最小限にするとともに「稲発酵粗飼料生産・給与マニュアル 第7版」(2020.3. 日本草地畜産種子協会発行)https://www.souchi.lin.gr.jp/skill/pdf/manual_vol7.pdfに記載されている農薬を使用することができます。

収穫時期

ホールクロップサイレージ用イネの収穫適期は、乾物収量やTDN含量を考慮すると糊熟期〜黄熟期が基本となります。

タイプ別の収穫時期

同じ専用品種でも従来型品種は登熟が進むと籾の硬化が進み、遅い収穫を行うとTDN収量が低下することがわかっています。このため糊熟期に刈り取るようにしましょう。食用米品種でも同じと考えてよいです。

他方極短穂高糖分型品種は、登熟が進むほど単少糖類やデンプンが茎葉に蓄積しますので、黄熟期すなわち出穂後40日以降を目安に収穫しましょう。

切断長と収穫機

切断長は、採用する収穫・調製機械体系(図2)によって10 mm〜無切断まで多様になります。サイレージ調製に注意を払えば、専用収穫機、汎用型飼料収穫機、牧草用機械のいずれでも対応できます。これらはいずれもロールベールラップサイレージです(写真2)。最近はTMR飼料の原料としてバンカーサイロ貯蔵する事例に合わせて、切断長6 mmの汎用型飼料収穫機が登場し(写真3)、サイレージの高品質化が実現しています。

 

図2 WCS用イネの収穫・調製機械体系

 

写真2 ロールベールサイレージ調製と貯蔵

 

 

写真3 バンカーサイロ対応の汎用型飼料収穫機

乾物率

収穫時期の項で述べました糊熟期〜黄熟期の乾物率は、30〜35%程度です。収穫適期の乾物率は食用米品種や専用種(従来型品種)では30%余りで、極短穂高糖分型品種では35 %以上を目安にするとよいでしょう。

サイレージ調製

食用米品種や専用種のうち従来型品種のサイレージの発酵品質は、不安定であることが指摘されています。その理由は材料草すなわち茎葉中の糖含量が低いとともに、茎が中空構造のため梱包密度が高くなりにくいからです。近年開発された細かく切断し梱包密度を高める機械開発によって、この問題がある程度解決されましたが、まだ課題を残しています。一方、極短穂高糖分型品種は茎葉中の糖含量が高いためサイレージの発酵品質をある程度改善できます。

しかし、両者ともに稲体に付着する有用な乳酸菌数が少ないことが指摘され、乳酸菌添加はとても有効です。食用米品種や従来型品種は籾の消化性を少しでも改善するため早めの収穫が推奨されていますが、水分含量が高くなり結果として発酵品質を下げることにつながります。また極短穂高糖分型品種は糖含量が高いことは良いことですが、サイレージ調製を終えると主にフルクトースはほとんど消失してしまうことが指摘されています。

このようにサイレージに仕向けるイネの型に応じて、表1のように使用する乳酸菌を選ぶことが大切になるでしょう。

従来品種極短穂高糖分品種
ホモ乳酸菌◎推奨
ヘテロ乳酸菌◎推奨

表1 極短穂品種と従来品種に適した乳酸菌

 

飼料価値

適切に栽培・調製された稲ホールクロップサイレージの飼料成分は、表2のとおりです。また原料草の繊維成分および乾物消化率の経時変化を、図3に示しました。飼料価値は粗灰分が高く、粗脂肪、粗タンパク質がやや低い特徴はありますが、牧乾草に比べてビタミンE(α-トコフェロール)、A(レチノール)含量が高く、牛乳や牛肉へ移行することが明らかにされています。原料草の繊維成分は、図3のとおり専用品種の従来型と極短穂高糖分型で違いがあり、ADLom含量が出穂後日数を経ても極短穂高糖分型は低い傾向です。乾物消化率は従来型が出穂30日以降急速に下がるのに対して、極短穂高糖分型は出穂後も高い水準を維持する特徴があります。これは籾比率の違いと登熟による籾の硬化が要因です。その結果、TDN(可消化養分総量)は従来型の約54%より極短穂高糖分型は60%前後となっています。

表2 極短穂品種と従来品種の飼料成分

 

 

図3 原料草の繊維成分および乾物消化率の経時変化

 

給与の目安

家畜への給与にあたっては、品種や栽培法によって成分変動がありますので、飼料分析を行ったうえで過不足のないメニュー作りに心がけましょう。

  • 肉用牛

繁殖牛への極短穂高糖分型品種の稲ホールクロップサイレージの給与は、粗蛋白質含量が低いため単味給与すると繁殖性が低下するため他の乾草類と併せて給与すると利用効率を最適化できます。肥育牛では稲ホールクロップサイレージのビタミン含量は、刈り取り時期や予乾の有無によって大きく影響されます。極短穂高糖分型品種の稲ホールクロップサイレージは、完熟期まで水田で立毛貯蔵することでβカロテン含量は稲わらと同程度まで低減し、肥育開始から出荷まで肥育全期間にわたって給与できます。

  • 乳牛

極短穂高糖分型品種の稲ホールクロップサイレージであれば、泌乳期を通して飼料乾物中23%程度。原物14〜18kg(乾物4.4〜6.1kg/日・頭)程度まで給与することができます。

 

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