雹による被害の診断
洪水や雹、霜、昆虫の食害などの被害を受けた際に、作物の健康状態を診断することは、植え替えなどの対応を決定する上で必要不可欠です。 多くの場合これらの出来事は露出している葉に損傷を与えますが、地中にある生長点や最終的な種子収量には影響を与えません。嵐によって被害を受けたコーンを診断する際には、次の対応が求められます。
1) 忍耐強く
2) 作物の生育段階を見極め
3) 作物の健康状態を正確に評価する。
被害が気になって焦る気持ちは分かりますが、最終的な診断は嵐が過ぎ去ってから7~10日が経過するまで待つようにします。 被害を受けたコーンが生育可能な状態であったとしても、生き残った組織が再生長し始めるまでにはそれくらいの時間を要します。
播種後に雹による被害が発生した場合、以下の4つを評価します (Vorst, 1990) 。:
- 株の倒伏による収量損失量の決定
- 落葉による収量損失の決定
- 直接的な雌穂の損失量の決定
- 傷や茎の損傷量の決定
栄養生長期
通常、雹による被害は第7葉期(v7)より前のステージのコーンであれば、最小限で抑えられます [表 1 ]。組織が生きていれば数日以内にはらせん状に葉の生長が見られ、気温が高ければ2、3日で新しい葉が出てきます。この段階が作物の被害を診断するのに適した時期です。作物が健康であるかを評価するには、茎の最下部にある生長点を観察します。 生長点は健康であればクリーム色や薄い黄色をしているはずで、それ以外の色がないかを探します。 生長点か傷ついていた場合に現れる最初の兆候は、約4~6日以内に薄赤色または褐色に変わることです。 生長点に変色が見られた場合、その株は収量が見込めず、枯死することもあります。
株の損傷を評価し、株の植え替えや遅植えが必要かどうかを判断するには、こちらの資料をご参照ください。 Corn Replant/Late-Plant Decisions in Wisconsin (UWEX Bulletin A3353).
栄養生長中期~生殖生長期
生育ステージが進むにつれて、雹の被害による損失はより顕著になる可能性があります。
- 第10葉期(v10)以降での倒伏はそのまま収量の減少を意味し (例:倒伏していない株が80%残っている = 潜在的な収量は80% ) 、それに落葉による損失が加わります。
- 茎や雌穂に傷があっても切断されていない場合、通常は収穫可能なほぼ正常た雌穂に生長します。
- 雌穂の大きさが十分であるにもかかわらず、落葉がひどく茎が腐敗している株が見られることがあります。光合成によって得られたエネルギーは、茎よりも雌穂に集まります。そのため茎は弱く茎の腐敗が進む可能性があります。 このような圃場では、これ以上の倒伏を避けるために収穫を早める必要があるかもしれません。
- 落葉が多い場合、コーン作物中の硝酸濃度が上昇する可能性があります。特に土壌の窒素含量が高い(肥料や堆肥、マメ科植物を鋤きこんでいる)圃場では、給餌前に硝酸塩量を検査することをお勧めします。
- 生育が進んだステージで落葉が起きた場合、土壌に日光が入り込みやすくなるため 雑草が繁茂する可能性があります。
コーンにおける雹害による最も大きな収量減少は、落葉によるものです。落葉による収量損失を決定するためには、生育ステージと失った葉の面積を考慮する必要があります (表 1)。落葉による収量の有意な低下は、絹糸抽出期に被害を受けた場合に最も深刻となり、作物の成熟度も低下します。
傷による損害は、収穫時に根詰まりしている株の数を数えて判断します。傷は茎の腐敗を引き起こしたり、カビ毒を引き起こす真菌の侵入経路となる可能性があります。雹害を受けた後の天候が湿っぽい場合、これによる損失が大きくなります。
表 1. 各生育段階でのコーンの落葉が収量におよぼす影響 (Vorst, 1990)
子実生長中に雹害があった場合、子実収量に悪影響があります。生育段階と落葉量にもよりますが、糊熟期(soft-dough stage)の後に被害を受けた場合、子実収量は0~41%少なくなります (表 2)。雌穂の落下があった場合、この分の収量損失も加わります。
表 2. 作物が枯死あるいは落葉した後の子実収量の損失
コーンの生育ステージ | 枯死 (収量損失%) | 落葉 (収量損失% ) |
---|---|---|
糊熟期(R4 Soft dough) | 55 | 35 |
黄熟期(R5 Dent) | 40 | 25 |
黄熟~完熟期(R5.5 50% kernel milk) | 12 | 5 |
完熟期(R6 Black layer) | 0 | 0 |
Derived from Afuakwa and Crookston (1984)
雌穂が折れた場合
折れた雌穂は、生長を続けることはできません。サイレージ化を予定していた場合、どのような選択肢が残されているでしょうか。
- 作物に保険をかけていた場合は管理者に相談して保証額を確認するとともに、サイレージを生産した場合に掛かる費用を考慮します。
- 作物を堆肥原料として使用した場合の肥料価を考慮します。
- サイレージ化を決定した場合、貯蔵方法に合った適切な水分率(60~70%)の時にコーンを収穫します。乾乳牛や未経産牛への給与に適した低品質サイレージとして活用できます。
落葉がコーンの品質に及ぼす影響
落葉の程度が厳しくなるにつれて、また落葉の時期が絹糸抽出期に近づくにつれて作物の収量は低下します (Lauer et al., 2004; Roth and Lauer, 2008)。第7葉期(v7)で完全落葉した場合、作物の収量は16% 減少しました。同様に完全落葉した場合、第10葉期(v10)では43%、絹糸抽出期(r1)では70%、糊熟期(r4)では40%作物収量が低下しました。
コーンの品質への影響は、作物収量への影響と類似していました (図 2)。第7葉期(v7)~第10葉期(v10)での早期落葉はコーン品質に影響を与えませんでしたが、 特に絹糸抽出期(r1)と糊熟期(r4)では品質低下が見られました。絹糸抽出期(r1)と糊熟期(r4)では完全落葉によって、 中性デタージェント繊維含量(NDF)と酸性デタージェント繊維含量(ADF)が増加し、試験管内での真の消化率が大きく低下しました。NDF含量は対照区で44%であったのに対し、完全落葉によって絹糸抽出期(r1)で61%、糊熟期(r4)で51%まで増加しました。試験管内での真の消化率は、対照区で 81% であったのに対し 完全落葉によって絹糸抽出期(r1)で 73% 、糊熟期(r4)で79%にまで低下しました。またでんぷん含量は 絹糸抽出期(r1)での落葉に最も影響を受けました。なおNDFの消化率は、生育ステージの影響をうけませんでした。このような作物品質の変化によって、落葉は多くの場合に原料作物トンあたりの乳量を低下させました。
Wiersma (1993)は子実が成熟途中にある5段階の各ステージにコーンを収穫した時に、コーンサイレージの質がどう変化するかを調べています (表 3)。 この試験では、雹害を受けていない通常条件下のコーンを用いています。雹害によって葉が失われ、子実の成熟が悪化すると、繊維含量が増加し、作物収量、粗タンパク質含量、消化率が低下することで品質に悪影響を及ぼすと予測されます。
表 3. 子実が成熟途中にある5段階の各ステージで収穫したホールクロップコーンサイレージの、乾物率、粗タンパク質含量、ADF含量、NDF含量、消化率(Wiersma et al., 1993)。
生育ステージ | 乾物率 (%) | 収量(トン) | 粗タンパク質 (%) | ADF (%) | NDF (%) | 消化率 (in vitro ; %) |
---|---|---|---|---|---|---|
糊熟期 | 24 | 5.4 | 10.3 | 27.2 | 52.7 | 77.1 |
黄熟初期 | 27 | 5.6 | 9.9 | 24.3 | 48.0 | 79.0 |
1/2 ミルクライン | 34 | 6.3 | 9.2 | 22.8 | 45.1 | 80.0 |
3/4 ミルクライン | 37 | 6.4 | 8.9 | 23.8 | 47.3 | 79.6 |
ミルクラインなし | 40 | 6.3 | 8.4 | 24.0 | 47.3 | 78.6 |
このデータは、雹害を受けたコーンをサイレージ用に収穫するかどうかを判断する際に役立つでしょう。
参考文献
Afuakwa, J.J., R.K. Crookston, and R.J. Jones. 1984. Effect of temperature and sucrose availability on black layer formation in maize. Crop Science 24:285-288.
Bradley, C.A. 2008. Making profitable fungicide applications in corn. [Online]. Available at http://ipm.illinois.edu/bulletin/article.php?id=976 (verified July 28, 2009).
Lauer, J.G. 1997. Corn replant/late-plant decisions in Wisconsin. University of Wisconsin Cooperative Extension Publication, Madison, WI.:A3353, 6 pp.
Lauer, J.G., G.W. Roth, and M.G. Bertram. 2004. Impact of Defoliation on Corn Forage Yield. Agron J 96:1459-1463.
Roth, G.W., and J.G. Lauer. 2008. Impact of Defoliation on Corn Forage Quality. Agron J 100:651-657.
Vorst, J.V. 1990. Assessing Hail Damage to Corn. National Corn Handbook NCH-1:4 pp.
Assessing Hail Damage to Corn (wisc.edu) accessed on 28th August 2024.
Wenkert, W., N.R. Fausey, and H.D. Watters. 1981. Flooding responses in Zea mays L. Plant Soil 62:351-366.
Wiersma, D.W., P. Carter, K.A. Albrecht, and J.G. Coors. 1993. Kernel milkline stage and corn forage yield, quality, and dry matter content. Journal of Production Agriculture 6:23-24, 94-99.