気候変動の影響によって、平年よりも降雨量が減少したり、季節による降雨パターンが変化するなどの現象が世界各地で見られています。Emersonらは、アイオワ州、ジョージア州、ネブラスカ州の2010年と 2012年の作物特性を、分散分析を用いて比較しました。 2010 年の降雨量は平年並みでしたが、2012年は干ばつが起こった年です。
原料作物 | 収穫年 | n | 抽出可能成分 | セルロース | 総グルカン | キシラン | リグニン |
---|---|---|---|---|---|---|---|
コーンの茎葉 | 2010 | 11 | 13.8a | 35.5a | na | 20.3a | 15.1a |
コーンの茎葉 | 2012 | 11 | 23.3b | 32.6b | na | 17.6b | 12.3b |
混合イネ科牧草 | 2010 | 24 | 22.7a | 23.1 | 23.5 | 17.6a | 12.3a |
混合イネ科牧草 | 2012 | 24 | 29.1b | 22.9 | 23 | 18.5b | 10.6b |
ススキ属 | 2010 | 12 | 18.6a | 37.7a | 36.9 | 20.3a | 20.0a |
ススキ属 | 2012 | 12 | 26.4b | 28.9b | 29.0b | 19.7b | 14.7b |
水不足は、植物の成長に様々なストレスをもたらします。水不足が起こる時期によって異なりますが、総収量や 穀類やトウモロコシの雌穂/穀粒の形成が悪影響を受けます。そして水不足に伴って、植物中の抽出可能成分は増える一方で、構造を担う部分(セルロースやリグニンなど)は減少します。 また水の欠乏の継続は、植物による窒素の取り込みや利用に甚大な影響を与えます。原料作物中の残存窒素のバッファー作用によって、サイレージ貯蔵中の発酵性が低下します。このことは、貯蔵開始から最初の数日間に、毒性のあるサイロガスの発生につながる可能性があります。また発酵が遅くなることによって、乾物量の大きな損失、消化できる栄養素の損失、エネルギー価の損失が引き起こされます。
サイレージ発酵と最終的な動物の乾物摂取量(またはバイオガスのエネルギー量)は、天候の影響に大きく左右されます (Bernardes)。Marley は、添加したサイレージ用乳酸菌が死滅する高さの温度には、貯蔵開始から数日のうちに達する可能性があることを指摘しています。 しかし干ばつやそれに伴う水分活性の低下は、中温性の乳酸菌にとって大きなストレスです。その結果、自然着生もしくは添加した好ましい乳酸菌は、増殖速度が低下してしまう可能性があります。腸内細菌科菌群、バチルス属細菌、酵母やカビなどの好ましくない自然着生微生物は、通常水分活性が低下しても抑制されにくい性質があります。好ましくないこれらの微生物による発酵が顕著になると、発酵の効率が低下し、 乾物量や消化できる栄養素が大きく失われるとともに、好ましくない発酵産物が増加します (Rooke and Hatfield)。
微生物 | 発酵型 | 基質 | 産生物 | 乾物損失 (基質% ) | 総エネルギー |
---|---|---|---|---|---|
乳酸菌 | ホモ | グルコース | 2 乳酸塩 | 0 | 0.7 |
乳酸菌 | ヘテロ | グルコース | 1 乳酸塩 1 エタノール 1 CO2 | 24 | 1.7 |
乳酸菌 | ヘテロ | 3 フルクトース | 1 乳酸塩 1 酢酸塩 2 マンニトール 1 CO2 | 4.8 | 1.0 |
乳酸菌 | ホモ/ヘテロ | 2 クエン酸塩 | 1 乳酸塩 3 酢酸塩 3 CO2 | 29.7 | -1.5 |
乳酸菌 | ホモ/ヘテロ | リンゴ酸塩 | 1 乳酸塩 1 CO2 | 32.8 | -1.8 |
腸内細菌科菌群 | 2 グルコース | 2 乳酸塩 1 酢酸塩 1 エタノール 1 CO2 | 17 | 11.1 | |
クロストリジウム属 | 2 乳酸塩 | 1 酪酸塩 2CO2, 2H2 | 51.1 | 18.4 | |
酵母 | グルコース | 2 エタノール 2CO2 | 48.9 | 0.2 |
干ばつは、原料作物の収量を直接的に減らします (Meisser) 。それだけでなく、貯蔵中に産生される揮発性脂肪酸とエタノールの量を増やすことによって、出来上がったサイレージの嗜好性と摂取量を大きく低下させてしまいます。 つまり、干ばつは、収量の低下、サイレージの品質の低下、そして乾物摂取量の低下をもたらします。
干ばつは、土壌微生物にも影響を与えます。酷い干ばつや洪水は、植物の生態に大きく影響を与え、さらに土壌微生物にも長期的な影響を与えます(Nguyen)。干ばつが長引くと、細菌の存在量が対数的に減少し、それに伴って胞子形成細菌の相対存在比が大きくなることが分かっています。この研究では、酵母とカビの数については測定を行いませんでした。
干ばつは、植物に付着している微生物に影響を与えます。 それは、微生物が利用できる水分が不足するといった直接的な影響の他、植物基部の土壌が乾燥することによる間接的な影響によって引き起こされます。干ばつによるストレスは、植物に生理的な変化をもたらし、硝酸塩を増加させたり、シアン化水素の産生をもたらす可能性があります。干ばつを受けた原料作物を用いてサイレージを調整する場合には、上述したような悪影響を考慮して計画する必要があります。