クロストリジウム属細菌による不良発酵
クロストリジウム属細菌は、収穫後にサイロに投入される原料草に、普通に付着しています。原料草の炭水化物や蛋白質、乳酸をエネルギー源として利用して酪酸を産生するため、酪酸菌とも呼ばれています。
酪酸菌の至適pHは7.0~7.4であり、酸性に弱い性質を持っています。そのため乳酸菌(LAB)によって、乳酸が十分に産生されたサイレージを作ることが大切です。乳酸菌は発酵が進むにつれて、酸素を使う好気的発酵から酸素を使わない嫌気的発酵に切り替わります。収穫およびサイレージ調製をきちんと行わなかった場合、嫌気条件下において、クロストリジウム属細菌等の偏性嫌気性微生物(酸素があると生きられない微生物)の増殖を許すことになります。嫌気条件が整った際にpHが十分に低下していない場合、クロストリジウム属細菌が増殖します。
クロストリジウム属細菌による不良発酵のサイン
- 強い糞便臭
- 高水分なサイレージ
- pHが高い又は低いサイレージ
- サイレージの飼料分析の結果、酪酸濃度が1%を超える
クロストリジウム属細菌による不良発酵のリスク
クロストリジウム属細菌は、次のような場合に増殖しやすくなります。
- 水分が過剰に存在(予乾中の降雨、サイロ内への水の侵入等)
- 乾物率30%未満で収穫された原料草
- 収穫時に、土または灰分が多量に混入(8%超)
- 踏圧密度が不十分
- 原料草中の乳酸菌数が少ない
- サイレージ調製時の気温が非常に高い
サイロ内に水分の溜まっている部分があると、その部分でクロストリジウム属細菌による発酵が起き得ます。取り出し時に、クロストリジウム属細菌による不良発酵の形跡がないか、よく確認して下さい。
クロストリジウム属細菌による、汚染サイレージの問題点
クロストリジウム属細菌による不良発酵が起きると、出来上がった飼料には、次のような問題が生じ得ます。
- 栄養分の損失
- 飼料効率の低下
- 反芻動物の乾物摂取量の減少
- 乳牛の産乳量の減少、乳が汚染される可能性もあり
- 乳牛のケトーシスやその他代謝障害の発生リスクの上昇
クロストリジウム属細菌は、蛋白質を分解することにより、サイレージの質を顕著に低下させます。生体アミン(ヒスタミン、プトレシン、カダベリン等)を産生させ、動物群の健康や生産性に影響を与え、また異臭を生じさせます。
ボツリヌス菌(Clostridia botulinum )
サイレージに大型哺乳類(雄豚や鹿等)や小型動物(鶏や猫等)の死体や糞が間違って混入すると、限局的なボツリヌス毒素の生産が起きることがあります。このような場合は、最適なサイレージ調製と管理が実施された場合でも、ボツリヌス毒素が発生し得ます。ごく少量でもこのようなサイレージを与えれば、多数の家畜が短時間のうちに死亡する可能性があります。
クロストリジウム属細菌による、汚染サイレージの予防
クロストリジウム属細菌の増殖を防止するには、次のような対策が有効です。
- その作物に合った、適切な乾物率で収穫する
- 適切な詰め込み密度にまで踏圧する
- 水分や酸素の侵入を予防するため、サイロにカバーを掛け、密閉する
- 研究によって効果が証明されているサイレージ調製材を使う
クロストリジウム属細菌による、汚染サイレージへの対策
腐敗またはカビが生えたサイレージは、必ず廃棄して下さい。特にクロストリジウム属細菌に汚染されたサイレージを、分娩前後の乳牛に与えないで下さい。クロストリジウム属細菌の汚染サイレージをどうしても使わなければいけない場合は、酪酸摂取量を50 g/頭/日に制限して下さい。